ビッグイシュー:日本語による概要

(英国スコットランドを中心とする実際の活動例)

ホームレスの仕事をつくる―英国「ビッグイシュー」誌の試み

ダボス会議からソーシャル・アントレプレナーへ

30年前から世界経済フォーラム(通称ダボス会議)を主催しているスイスのシュワブ財団は、一昨年「ソーシャル・アントレプレナー(社会的起業家)のためのシュワブ財団」を設立し、益々世界的に広がる貧富の格差が縮少されるよう人々とともに活動している社会的起業家44人を選び、彼らを支援するため各人に10万ドルの奨学金を贈った。その中の一人が、ホームレスの人が売る週刊誌「ザ・ビッグイシュー・イン・スコットランド」の代表メル・ヤングである。

魅力的で地域でもっとも読まれている雑誌

 『ビッグイシュー・スコットランド』は毎週木曜日発行の週刊誌で、メディア調査によれば毎週25万人以上の人々が読んでいるといわれる。(スコットランド人口約5百万/2001年)この雑誌の中味はニュース、特集記事、著名人のビッグインタビューなどエンターテイメント記事のコンビネーションで構成され、ニュース記事では、特にホームレス問題などを含む社会的正義に関する問題に焦点をあて、他のジャーナリズムが取り上げないものを載せ、環境問題や差別問題、誤判など率先して取り上げてきた。市民的自由と社会的包含(ソーシャル・インクルージョン)を訴えていることが特徴である。求人欄もこの雑誌の個性的な一面で、多くのボランタリー団体や公共部門の求人、ボランティア募集広告など他の新聞や雑誌にはない誌面が購読者を魅きつけている。

社会的企業(ソーシャルエンタプライズ)・ファンデーション・ホームレス銀行

ホームレスの人がこの雑誌の販売者になるには、街頭販売上のルールを守るという同意書に署名、登録し、個人番号の入った写真入りの販売者(ベンダー)カードを身につけ販売する。最初は一冊1ポンドの雑誌10冊を無料で受け取る。この売上げを元手に、以後は定価の4割(40ペンス)で仕入れた雑誌を販売し、6割(60ペンス)をベンダー自身の収入とする。つまり雑誌販売業という仕事をつくるのである。

 ビッグイシュー・スコットランドは有限会社で、社会的企業として「スコットランドおよび世界中のホームレスの人々に収入を得る機会を提供することをめざす」という使命をかかげている。また、「ビッグイシュー社が提供するのは仕事であって救済ではない。ホームレスの人々は質の高い雑誌を売る仕事で収入を得るべきであり、『同情による購入』の売り上げであってはならない。」といい、事業が救済や代弁ではないことを強調する。社会的企業(起業家)とは「ビジネスの戦略を用いて社会的な病弊と戦う、新しい種類のダイナミックな起業家」(タイム誌)による組織のことである。さらに会社とは別に、ビッグイシュー・ファンデーション・スコットランドという非営利団体を設立し、会社の事業利益の一部をその活動に使う。ここでは新しいベンダーのトレーニングのほか、ホームレスの人へのカウンセリングや医療サービス、就労斡旋などの様々なサポートサービスを提供する。ベンダーカードを身分証明に口座をひらけるホームレスのための銀行の運営もしている。

英国から世界ネットワークへ

ビッグイシューの始まりは、国際的な化粧品会社ボディショップの創設者であるゴードン・ロディックが、ニューヨークでホームレスの売るストリート新聞を見かけたことだった。彼は、古い友人で後に『ビッグイシュー』の創始者となるジョン・バードに市場調査を依頼し、バードはビジネスとしてならロンドンで十分成立するという結論を出した。ホームレスの人の表現活動に重きをおく雑誌ではなく、誰もが買い続けたくなる魅力的な雑誌をつくり、ホームレスの人たちにはその雑誌の販売に従事してもらうというポリシーで1991年にロンドンで創刊。その後1993年にスコットランドでも発刊された。

そしてホームレス問題が国際的な問題であるとの認識から、1993年にはビッグイシュー・ロンドンが中心となりインターナショナル・ネットワーク・オブ・ストリートペーパーズ(INSP)を創設した。現在INSPの事務局はスコットランドにあり、世界各地から50以上のホームレス問題に取り組むストリートペーパーが加入。その発行部数をまとめると、年間2,500万部発行されている計算になるという。